20191229 極寒の地に降り立つまでは寒さについて知っていると言えない

今回の旅は出立の前に始まった.
サハ共和国へ行こうと決めた時,まず行き当たったのが着衣の問題であった.
マイナス 71.2 度という極寒の村オイミャコンには行かないが,それでも首都のヤクーツクはマイナス 40 度を下回る日が多い.プラス 5 度ほどの東京で寒い寒いと騒いでいる僕には,それなりの覚悟と装備が必要である.

ネットを参考に買い揃える.上半身はまずヒートテックをノーマルと極暖,超極暖の重ね着.その上に薄いセーター.そして綿入れの上着ないし長い起毛の上着を着て,最後に冷凍庫作業用のジャケットを着る.
下半身は二重のタイツの上に靴下を三重に履き,ヒートテックはノーマルと超極暖.その上に防水・防風の山パンツ.
靴はマイナス 40 度対応のブーツを選んだ.
最後に飛行帽とマフラーで完成である.

新調したのは,ジャケット,ブーツ,パンツ,そして飛行帽.結構な出費である.特にジャケットはもう二度と着ない気がするので,何とかできなかったのかと思う.当初はモンベルで零下 40 度対応のジャケットを見つけたのだが,実にダサかった.マグロの冷凍倉庫用のものは当然の如くダサかったが,高価でダサいものと,安価でダサいものがあれば,安価なものを買いたくなるのが人情というものだ.ちなみになぜマグロなのかというと,大きい魚の方が冷凍温度が低いから,らしい. ブーツは少しいいもので,カナダのソレル社のカリブーというものだ.マイナス 40 度対応というのは,暖かいということかと思ったが,それだけでなくゴムが割れないことが重要なのだという.革のブーツの中にはフェルトのインナーブーツが納まり,足を温めてくれる.あとになって思えば家にあったチャチいブーツで来訪し,現地の市場で買い足すという計画は無謀だったのかも知れない.


万が一ロストバゲージした場合を想定し,装備の半分は機内持ち込みのナップサックの中に詰め込み,家を出た.

時刻は AM 6:00 前.フライトが 8:40 なので始発で移動した.
成田空港へ向かう列車の窓からは,地から湧き起こる赤い光が夕闇を崩す様が見える.

フライトは S7 航空という.LCC くさい名前の航空会社であるが,ワンワールドに所属し,JAL とコードシェアしている大手会社だ.機体はエアバス A320. こないだのパキスタン便でも使ったが,エコノミーは横 3 席が 2 列のやや手狭な航空機である.
座席前面にはモニターはなく,代わりにデバイススタンドが付いていた.


食事はメインで魚かパスタを選べ,クラッカーなどの入った箱と共に渡された.僕はパスタを選んだが,思ったほどは不味くない.


特筆すべきはトイレである.前に並んでいた女性がキャビンアテンダントにトイレットペーパーがないと告げると,ハンドタオルを使えと言っていた.便器に流さずゴミ箱に捨てろという.

着陸 1 時間ほど前にお茶のサービスがあった.茶菓子はエネルギーバー.


席は狭く,安眠というわけには行かなかったが,それなりに休めた.そうでなくては困る.乗り継ぎのノヴォシビルスクで 9 時間あるので,街に出たいのだ.街まで 1 時間,長めに見積もって 1.5 時間.空港には 1.5 時間前には行けと言われているので 2 時間前に行くとすると 4 時間は自由時間がある.
世界で一番速く発展したというノヴォシビルスクの街歩きくらいは出来るのではないか.

機内で今更ながらキリル文字のおさらいをする.旧ソ連の国はいくつか訪問したことがあり,その度に覚えようとするのだが,あっという間に忘れてしまう.中年の悲哀,と言いたいところだが,僕は若い頃から記憶力が悪いので,痛手は少ない.


ノヴォシビルスクはマイナス 17 度.装備は上半身がノーマルヒートテックと極暖ヒートテック,綿入れの上着の上にジャケット.こちらはさほど寒くない.さすがにパンツ一枚の下半身は寒い.空港のトイレでタイツ一枚とノーマルヒートテックスパッツを一枚足し,飛行帽を被って空港の外に出た.

吐く息は白く,咳をして深く息を吸うとその冷たさに更にむせ込んでしまう.
バスで郷土博物館に行こうと思ったが,掲示されている時刻表とGoogleの示すそれが異なるため,危険を察知し,Yandex なるタクシー配車アプリを使う.街中の博物館まで 30 分弱, 400 ルーブル 位 (700 円程度). 行先の指定が出来て,支払いもアプリ経由でクレジットカードで払えるので相手が英語を話せなくても目的地まで行けるので便利である.

四半世紀も昔,旅をしていた頃は GPS がないので自分がどこにいるのかも分からず,乗る前に値段交渉をしていても降りる時には吹っかけられていたことを思うと,隔世の感がある.
僕はどちらも嫌いではないけれど.

博物館は紀元前から現代に至るまでの展示が色とりどりに飾られていて,面白い.例えば服は単品ではなくコーディネートされているので,実際の雰囲気がイメージしやすい.シャーマンの衣装など中々充実しているが,そのリアリティゆえに世界大戦の段ではやや沈鬱な気分になった.



博物館を満喫してから,Puppen Haus なるレストランで夕食.博物館から歩いて 10 分ほど.
Tripadviser に「至る所に人形が飾られており…」と書かれていたので,可愛らしい雰囲気を想像していたが,クラシックで大人っぽい居心地の良い店であった.

注文は Soft-salted traditional northern muksum (鮭科の魚の刺身), baked veal roastead beef (ローストビーフ), tender pike cutlets (淡水魚のメンチカツ)
いずれも美味しかった.メンチカツの上に惜しげもなくイクラが乗っていたのが,これからの旅に期待を誘う.


ヤクーツクまでのフライトは,同じく A320. ビジネスクラスは 2 列 2 行.
モニターがなく,デバイススタンドがあるのは成田からのフライトに同じ.

翼に雪が積もっているので,どうも不安になるのだが,何事もなく飛行機は飛び立った.すぐに視界は霞の中.雲が低いところまで来ているのだろう.

機内食はバクイット.大麦にキノコと人参を混ぜて蒸し,シンプルに塩で味をつけたと思しき料理.正直不味い.パンにはレバーペーストらしきものをつけて食う.食後に炭酸水を頼んだら,一緒にチョコをくれた.


幸い預け荷物はヤクーツク空港に届いた.さらに装備を着込み,空港の出口でガイドと落ち合う.

空港を出る瞬間,ガイドは言った."Welcome to Yaktsk!"
高層ビルからの夜景でもなく,眼前に広がる草原でもなく,凍てつく空気こそがヤクーツクなのだろう.


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