20210123 水戸街道のほとりで文豪は鯉を食らう
【水戸街道】
夕方,柴又の川甚へ.
水戸街道 (&佐倉道) の近くにあるので,街道を歩く際に寄ろうと思っていたのだけれど,諸般の事情で来訪を決めた.雨が降っていたので電車で移動.
創業 230 余年,江戸後期(寛政年間)から続く川魚料亭.夏目漱石,谷崎潤一郎など多くの文学作品にも登場しているのだが,新型コロナの影響で,今月いっぱいで閉店するというのだ.
今の建物は 1964 年,東京オリンピックの年の 12 月に建てられたそうだ.男はつらいよにも使われていた.
サイン帳には三島由紀夫,黒澤明,手塚治虫などの名前が記されているという.
通されたのは四階の広間.4つ置かれたテーブルには違い違いに椅子が置かれている.
壁際に寄せられたテーブルからは,以前はもっとお客を入れていたのだろうことが読み取れる.
冷酒は「幻」.
先付けは胡麻豆腐,前菜は数の子,白インゲンのきんとん,大根の梅など,新春のあしらい.かますの焼き物やサーモンの巻き寿司,桃色のイカ黄金,卵焼き,茹で蛸.どれも繊細でうまい.
それから鯉の洗い.わずかに泥の香りはするが,むしろ旨味に感じる.ざっくりとした味わい.添えられたカイワレと酢味噌は,臭みを感じさせまいという強い意志の現れだろうか.
そして鯉の甘煮.僕が頼んだ雪コース (中) にはないものだったけれど,月コース (下) にあったので付けてもらったのだ.これは甘辛い味付けで,甘露煮のような感じ.鯉の骨が Y 字なことを観察.あんまり鯉の味は感じなかったように思う.
季節の炊き物はニシン,春菊,椎茸,かぼちゃ卵,たけのこ,生麩.上品な味で美味しい.ニシンのくさみを春菊で迎え撃っていると,春だなぁという喜びが湧いてくる.
ここで焼き物.魚介類のグラタンと,う巻き,鰆.だんだん腹がいっぱいになってきて,添えられたアンズ,はじかみ,大根おろしが有難い.
更に鯉こく.江戸甘味噌と上方の西京味噌を合わせているらしいが,これも結構味が濃い.本来汁も飲むのだろうけれど,飲み切れず.
その後うなぎの蒲焼があったのだけれど,さすがに満腹だったので包んでもらって,水菓子を頂いた.
最後に店員さんに聞いてみた.
「こちらのお店,別の場所でまたやるという噂を聞いたのですが…」
「あ,いえ,その,いえ,まだ,お話としては決まってないと申しますか…」
なんとも歯切れが悪い.再開はしたいけれど融資が下りていないとかなんだろうか?
いずれにしても,これだけ歴史のある店が閉じてしまうのは如何にも惜しい.再開の際には是非訪れたいところである.
川甚: ★★★★☆ (鯉料理のバリエーションの豊かさと歴史から)
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