20140102 飛べない鳥は森を守り国を守る

起きて早々,フライトまでの時間を南極で過ごす.なんという贅沢.



「南極の嵐」を体験したかったのだが,時間が合わず,凪の南極のみ.それでも氷と雪の中,強風に吹かれるのは,目覚ましにちょうどいい.シアターなどもあったのだが,見る時間なし.

再びブルーペンギン.昔読んだ絵本の「ペンギンは空を飛ばない.…でもそれは間違い」という文を思い出す.



朝っぱらからバタバタと,一体何をやっているのだか.



空港でサンドイッチなど頂いてから,慌ただしくクライストチャーチを発ち,ロトルアへ.機材は ATR72.68人乗りのプロペラ機である.タラップを登り,4列のみの小さな機体に入ると何とはなしに興奮する.次のロトルア発オークランド行きはさらに小さい予定だ.



ロトルア空港は,空港の向こう側にロトルア湖の見える,かなり小さな空港であるが,シドニー行きフライトの飛ぶ,国際空港である.

空港から市バスに乗ろうとしたがシャトルバスの運転手が,今日は公共交通機関はまだ休みだという.クライストチャーチは1/2 から概ね平常通りだったので,やや疑いつつも,ニュージーランドで余り騙されるとは思えず乗り込んだ.一緒に乗ったクライストチャーチからの客が,休みだなんてわからなかった,教えてくれて有難う,とやたらに感謝するのを見て,疑った自分を少し恥じた.

本日の宿は Quest という,マンスリーアパートを日借りした.ホテルの空きが少なく,少々高くついてしまったが,キッチンとリビングがついた,広々とした間取りである.

ニュージーランドに来た目的の一つは,マオリ文化を見ることだった.ロトルアは比較的大きな部族がいたため,マオリの様々な施設が残っている.

バスの発着点でもあるツーリストインフォメーションは,マオリの彫刻が施されている.
ちなみに前に止まっているのは,ツアー用の水陸両用車.



ホテルの人にマオリの施設について聞くと,間欠泉の見学やハンギ(マオリの蒸し料理) のセットになったコースを予約してくれるという.キウィが見られるというのも,スチュワート島に行きそびれた身には魅力的である.値段がそこそこするので躊躇ったが,交通手段の限られた本日,送迎が付いているのも重要である.

迎えのバスまで時間があったので,通りをぶらぶらしてみた.土産物屋を覗いたり,地元の人向けのショッピングモールなどうろついた.ニュージーランドは全般的に物価が高く,500 mL 入りの水が3から4ニュージーランドドルというのは珍しくないが,ショッピングセンターでは 1 ニュージーランドドル (約 85円) 程度のものも見つけた.

ロトルアは温泉地として有名で,マオリの人々にとっての聖地でもあったらしい.
町中ほのかに硫黄の匂いがする.

マイクロバスに拾われて「テ・プイア (マオリ語で火山,間欠泉などを意味する)」と呼ばれる文化センターに連れていかれた.内部には聖地の間欠泉ポフツ,キウィ舍,織物学校,彫刻学校の他に,食事をする場所やショーをする場所を有する.

まず「テ・ヘケタンガ・ア・ランギ (天国の始まり)」という名の入場門をくぐる.

ンガモカイアココ鉱泥泉.Mudpot,mud pool と呼ぶようだが,泥湯というより,泥そのものに見える.カエル池,とも呼ばれるこの熱泥は,長石が酸性ガスと水蒸気によって分解され,カオリンと呼ばれる粘土が形成された結果できたのだという.カオリンの白と,黒色硫黄が混ざり,灰色に見える.温度は 90 から 95 ℃にも達する.



マオリの血の入る者は現在でも 79 万人おり,ニュージーランドの人口の約 18% を占める.政治的権力はないが現在でもマオリ王が存在しているということを,今回の旅で初めて僕は知った.
顔面や全身に刺青を施した姿は,何処かで目にしたことのある人も多いだろう.

ツアーが始まる前に,テ・プイア内部を歩いてみた.入場時に渡されるパンフレットを見れば,概ねことは足りるので,ツアーではなく,テ・ポ (夜のショー) のみで良かったように思われてきた.

マオリがどのようにして来たのかを示す地図.19から20世紀には,マオリが南アメリカ,ギリシャ,エジプト,イスラエル,インド亜大陸などに由来するという説があったが,現在では東南アジアとの関連が強く指摘されている.



赤い三角は,ポリネシアントライアングルと呼ばれ,ハワイ,ラパヌイ (イースター島),ニュージーランドをつないだもので,近しい文化圏に属するという.

ンガ・マヌ・アフレイ・キウィ・ハウスに移った.キウィは鳥類としては珍しく夜行性なので,内部は真っ暗である.キウィは視力がほとんどない分,嘴の先端にある外鼻孔を通じた嗅覚で補っているらしい.

もともとテ・プイアのキウィハウスは展示ブースとして作られ,その後,傷ついたキウィを保護することを通じて,繁殖も行うようになった.

暗闇で餌の虫でも探しているらしいキウィは,体長 40 cm ほどもある.思ったよりだいぶ大きい.

ここにいるのはブラウン・キウィのみ,と説明されたが,そもそも「ブラウン・キウィ」が指す種は何種類かあるようだ.恐らく最も一般的な North Island Brown Kiwi と思われる.

キウィは体の割に大きな卵を産むことが特徴で,雌は自分の体重の約 20% もある卵を産む.鶏が 3%,ダチョウで 2% という数字と比べると,破格に大きい.50 kg のヒトにとって 6%,3 kg の児ですら大変だと思うのに.

関係ないが,キウィはオスが巣作り・子育てをすることが有名で,家庭的な夫のことを「キウィ・ハズバンド」という,と日本語の wikipedia には書かれているのだが,"kiwi husband" で検索をかけると,引っかかってくるのは日本語ばかりである.もしかしたら和製英語なのだろうか.

"kiwi" は "ニュージーランドの" という意味もあり,単にニュージーランド人の夫のことを言っているのではないかという気もしてくる.日本人よりはニュージーランド人の夫の方が家庭に滞在していそうではあるが,真偽のほどは明らかでない.

ただ,テ・プイアのホームページを読むと,オスも卵を温めるといっても,卵はしばしば放り出されていることがあるようだ.キウィの孵化は 75 日と長い上,前述のように体の割に卵が大きいため,大変なのだろう.

飛べない鳥,キウィ.

マオリの伝説によると,森を守るために,美しい羽を失ったのだという.その代わり,皆から愛されるようになったのだと.
羽毛というより,毛そのもののような羽が体を覆い,翼も痕跡しかないキウィは,確かに愛らしい.

闇から這い出し,ツアー開始.

まずはポフツ間欠泉へ.一時間おきに1, 2 回, 30 m の高さまで噴き出す,と聞いていたのだが,今日はほぼ連続して湯が吹き出している.天気が悪いと,湯気がわずかに立っている程度のこともあるようだが.
間欠泉の根元に,虹.



なかなか壮大な光景である.

テ・プイアの面白い点は,マオリ男性で無いと入学出来ない彫刻学校 (テ・ワナンガ・ファイカロー) と織物学校 (テ・リトー) が内部にあることだ.民族の文化を紹介する施設と,それを次の世代に引き継ぐ施設がまとめられている.

マオリは亜麻の繊維で布を作るそうだ.写真はマオリの腰蓑 (ピューピュー).ハラケケと呼ばれる青い細長い葉を貝でしごくことによって,太い繊維以外を取り除く.取り除かなかった部分と組み合わせることで,模様を作るのだ.脛を使って長軸に沿って丸めて,糸でつなぎ,乾かす.

写真で茶色やチョコレート色になっているのが葉を全て残した部分,麦わら色のところが,太い繊維だけ残した部分である.



鳥の羽を使った織物.キウィの羽根で飾られたマントは首長の証である.



彫刻は建材に施されるものが殆どであった.赤茶色,または,白・黒・赤茶の三色を組み合わせたカラーリングがメイン.


パウア貝をあしらうこともある.



工房内部.



プータタラ (ほら貝)の音が鳴り響いた. 夜のショー「テ・ポ」の始まりである.
まずはポーヒリ (歓迎の儀式) を受ける.

トロフィオ・マラエ (集会場) に集まった.「マラエ」も「ファレヌイ wharenui」も集会所と訳されるが,ファレヌイは,その中心となる建物を意味し,マラエはファレヌイや広場も含むオープンスペースのことらしい.

まず客人側の代表者が選ばれた.写真左で立っている男性が我らが酋長殿である.



友好のあかしを確認するため,トア (戦士) からウェロ (挑戦) を受けるのだ.ここで十分な敬意を示さないと,生死の分かれ目が決まる.

マオリの長は,舌を出して目を見開く,独特の表情で威嚇する.始めは見慣れないその顔が,次第に男性的な力強いものに感じられてくる.歌舞伎の隈取もこのような感じなのだろうか.

客側の長がマオリから槍を受け取り,鼻を擦り付ける挨拶をした.
どうやら受け容れてくれるらしい.やれやれ.

女性から歓迎の呼び声,カランガを受け,正面の建物,つまりファレヌイに入った.
この建物は,テ・アロヌイ・ア・ルアという名前で,ツプナ・ファレ (先祖伝来の集会所) でもある.在校生や卒業生の彫刻で飾られた,立派なものである.

まず,ファイコーレロ (歓迎のスピーチ) をもらう.新たなファーナウ (親族) として迎えてくれるのだ.
「ハカ」を含む様々な民族芸能を観賞する.

本来は戦闘の前に行われる「ハカ」は,現在では敬意や感謝の念を表すものとして踊られている.ラグビーのニュージーランド代表が踊り,国際的に有名になったという.



躍動感.エネルギーに満ちた間欠泉の様な力強さである.

女性は「ポイ」と呼ばれる直径 10 cm 程度のボールが先についた紐を両手に持ち,リズミカルに回して踊っている.

「ハカ」の後はハーカリ (供宴) である.
「ハンギ」と呼ばれる,地面に埋めて作る蒸し料理を掘り起こすところを見せてもらった.



敷地内にンガララ・ツアタラ調理泉という場所があり,そこでは,植物性の粗い袋に入れた,トウモロコシ,シーフード,卵などの食材を温泉に入れることで茹でているらしいが,本日の食事にはそれを出してくれるわけではないようだ.


食事はファレヌイの横の建物で,ブッフェ形式で頂いた.ハンギ以外の肉料理・野菜・スープなど,意外なぐらい普通の印象.



食後,ワカ (カヌー) と呼ぶ乗り物で,再度間欠泉へ行った.
ハワイキという島 (ハワイ島とは関係がない) から 7 隻のワカに乗り,ニュージーランドにたどり着いたマオリをイメージしているのだろう.



暖かいココアをもらい,寛ぐ.
座った石は暖かく,まるで大地という名の母に抱かれているようだ.



ポフツ間欠泉の横には,プリンス・オブ・ウェールズ・フェザーズ間欠泉,ケレル間欠泉と並び,その下にブルー・プールと呼ばれる池がある.日中はその名の通り青く見えた水面は,今は橙色に染まっている.水温 30-50 ℃で入浴している人もいたのだが,許可を受けているのかは知らない.

間欠泉の周囲に堆積した白い石は水の流れをそのまま写す.



夕刻に近づく空は,大地からの力に燃えているようであった.



空が暗くなり始めたころ,マイクロバスで帰路についた.
明日は何をしようか.

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