20220109 紙と仏と

【沼津宿~原宿~吉原宿】


懲りずに週末も東海道歩き.

新幹線にて三島まで行き,東海道線で沼津へ.


昼食は沼津港にある「沼津バーガー」で深海魚バーガー 700 円とイカたらナゲット 390 円.

バーガーはメギスという白身の深海魚を使っている.タラのカツとチーズ,大量のキャベツを挟んだ物で,素朴な味.ナゲットはさつま揚げっぽかった.

沼津バーガー: ★★★★☆ (ご当地物なので,少し甘めの点数)


駿河湾は日本で一番深い湾で,水深 2500 m.二位の相模湾が 1500 m, 三位の富山湾が 900 m と言うのだから,かなり深い.深海魚を推していて,沼津港には深海水族館もある.


さて,港から,前回の終点である川廓通りまで戻り,東海道開始.

沼津宿は 1843 年の記録では 5300 人余りの人口を誇る大きな湊町であった.そのため本陣が三つ,脇本陣が一つと偉い人の宿も多い.


各本陣後には碑があるのみ.

まぁ,なんかあるだけでも有難い.

碑ひとつ,看板ひとつから江戸を妄想しなきゃ,何もない道,歩いてらんないよ.

さて,今日はここから 7 km ほどの原宿を通り過ぎ,更に 11 km 進んだところにある吉原宿まで行くので,先を急いだ.


吉原の宿の人に,18:00 までに来なかったら,ご飯出しません,と脅されているのだ.


家々の合間から富士山が見えるほかは,地方都市の郊外らしい,落ち着いた街並みとなる.


原宿に入る手前のところに,神明宮という小さな無人の神社があるのだけれど,3-4 世紀に作られた前方後円墳の上に立っているのが趣深い.

原宿では,白隠禅師誕生の地に寄った.


「駿河には過ぎたるものが二つあり.富士のお山と原の白隠」 


白隠は「両手を打てばパンと音が響く.片手では,さあ,どうだ!」というような禅問答で有名な僧侶で,500 年に一度の高僧と言われている.

14 派ある臨済宗の僧侶は,全て白隠の教えを継承しており,白隠は臨済宗中興の祖と呼ばれている.

まぁ,僕,前回,白隠政宗て酒飲んだ時に名前知ったんだけどね!


地酒の名前から,その土地のことを知ることもよくある.

そう!僕は無駄に酒を飲んでるわけではないのだ!


ここらで 10 km ほど歩いたので,喫茶店で休もうかと思ったが,手頃な店がない.

というか,喫茶店に限らず,店がほとんどない.


仕方がないので,街道から離れたところにあるホームセンターの中のフードコートでお茶を飲んで休憩.ふぅ.

郊外って車文化だから,小さい店舗は少ないんだよね.

そして,一旦休むと,立ち上がるのが辛い.


時計を見ると 16:50. あっ,ヤバい!あと 4.6 km, 間に合うか…?!

晩飯が,晩飯が……!


グーグルマップで残り時間を確かめながら,早歩きで宿に向かった.

17:50 ヤッタ!宿到着!


カウンターに置かれたベルを鳴らすと,奥から丸顔の女将さんが出てきた.歳の頃 60 というところか.短い髪は赤く染めてカールにしていて,ハッピを着ている.何だろう,この和む感じ.


「18:00 なんて急かして済みませんねぇ.他にお客さんがいるから,時間ずらした方がいいと思って…」


感染に気を使っているようだ.


「いえね,この時分,そんなにお客さん,来てほしく無いんですよ.細々とやって,補助金貰った方がねぇ」

「はぁ」

部屋で少し休憩.部屋は洋室の中に洗面台があり,冷蔵庫・風呂・トイレは共同.


狭い部屋の隅に置かれた椅子に置かれたクッションが,電動マッサージ機でちょっと驚いた.

押し入れの中や部屋の隅に,机や座卓が隠されていて,何だか微笑ましい.この宿,和室もあるらしいので,そこで使うのだろう.和室にしまえばいい気もするけど.


壁に貼ってある,岸部毛織株式会社 (KSB) という会社の毛布の説明がぐっとくる.

この会社,昔のホームページはアヤシサ満載なのだけど,今のは,Twitterあり,有名作曲家の社歌ありで,発展ぶりがうかがえる.

旧) http://www.ksb-k.co.jp/html/dairitenn2.html

新) http://www.ksb-k.co.jp


昭和のビジネスホテルというか,民宿というか,嫌いじゃないな,この雰囲気.

いや,むしろスキ.

和んだのち,併設の割烹へ.


「ごめんください」

「は~い」


出てきたのは先程の女将だった.厨房には他に人影もない.

ホテルと割烹,全てこの人がまかなっているんだろうか.


刺身はアジ,カンパチ,トロ.どれも新鮮でうまい.


焼き物は太刀魚の塩焼き.上品なお味.


あとは,控えめな味付けで素材を感じる手羽先と野菜の煮物と,どっしりとした金目鯛の煮付け.

富士宮のコシヒカリは,手のひらサイズのおひつに入っていて,甘味と香りが魚の旨味を包み込む.

料理上手な田舎のばあちゃんが,久し振りに来た孫のために,腕によりをかけて作ってくれたご飯のようで,しみじみと優しい.


アジと太刀魚と金目鯛が地魚だという.

野菜も地元の有機野菜とこだわっている.


「あれ.僕,地魚プランですよ.こだわりプランじゃないんで,キンメ,付いてないと思いますけど……」

「いえ~,今日ね,小さい魚がいいのがなくてねぇ.キンメでも出さないと驚いてくれないかなって思って」


気持ちが嬉しいでは無いか.


地酒「高砂」の本醸造は,癖が強いので,賛否が分かれそうなところ.僕はちょっと苦手かなぁ.何かイグサみたいな匂いがするんだよね.


食べながら,女将に話しかける.


「吉原は何が有名なんですか?」

「製紙工場がたくさんありますよ.30 くらいですかねぇ.コピー紙とか,トイレットペーパーとか…….三島製紙とか,五條製紙は,たばこの巻き紙なんかも作ってるみたいですね」


ほほう.


こないだの小川町といい,近頃は紙に縁があるのかな.

ただ,小川町の和紙と違って,吉原 (というか富士市) は工業化した洋紙が発達したようだ.


「この辺りで一番栄えているのはどこですか?」

「栄えてるっていってもねぇ.吉原本町駅のあたりは,商店街があるけど,八時になると,もうねぇ……」


「アタシが商売始めた頃は,0時までお客さんがいたけど,今は七時には帰っちゃうからねぇ」

「人が少ないんですか」

「いえ,人は多いんですよ.日本製紙に買われちゃった大昭和製紙ってとこがあって,北海道の白老工場から社員がいっぱい吉原に転勤になってね.吉原で定年になる頃は,子供もこっちで結婚しちゃうじゃ無いですか.年寄りは雪かきが大変でしょう,だからこっちに居つくんですよ」

「暖かいしねぇ.人も穏やかだから,住みやすいんじゃないですかね」


夜,客が来なくなった理由はよく分からなかったけれど,まぁ,何となく街の輪郭は見えてきた.


食後,コンビニでも行こうと駅の方に行くと,まだ 19:30 なのに,店がひとつも開いていない.駅前にはかなりの台数の自転車が停まっているので,沼津のベッドタウンなのかもしれない.


コンビニで先程の高砂をまた買った (苦手と言いつつ,また買う).

さっきよりもマイルドな気がした.


ホテルに帰り,原宿で貰ってきた白隠のパンフレットを眺めていたら,彼の教えが書いてあった.


衆生本来仏なり

直に自性を証すれば

この身即ち仏なり


(人は皆,もともと仏である.本来の自分に気がつけば,やはり自分は仏なのだと自覚できるのだ)


本来の自分って言うけどさ,それ知るの,簡単じゃ無いよね.だから皆,大悟を得ないのか.


自分は何を好きか.自分は何を嫌いか.

出来ることは何か.出来ないことは何か.

ひとを傷付けず,自分を傷つけず.


ただ,あるがままに.


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