20220110 二度動いた宿場町は人懐こい

【吉原宿~富士川】


朝食は沼津ブランドのアジの干物,地物のレタス,手作りのきゅうりの漬物に,これまた手作りの味噌の味噌汁.朝から充実した気分になる.

ビジネスホテル菊川: ★★★★☆ (食事も美味しく,2 食付きで 8500 円はお得)


さて,駅の東まで戻り,東海道再開.


この辺りでは津波のために,東海道は二度ルートが変わっていて,吉原宿もそれに伴い場所を変えている.

最初の吉原宿は,JR 吉原駅の付近,二度目は左富士 (下記) のあたり,三度目の新吉原宿は吉原本町駅付近にあたる.

ちなみに,JR 吉原駅の西に「見附 (町の外れ)」という地名があり,東海道の吉原宿の端かと思ったのだけれど, 1601 年にその道に通じる渡し舟が廃止されているところからみると,東海道が成立する以前の地名のようだ.

移動のために新しい東海道は蛇行して一部北北東に進み,富士山が左側に見える.

左富士と呼ばれる名勝である.

江戸から東海道を歩くと,富士が左に見えるのは,ここと茅ヶ崎市南湖しかない.


近くにある「平家越」は,源平の戦いの時に,水鳥の羽音を源氏と間違え,平家が退却した場所だと言う.

そして吉原本町駅へ.自動改札のない無人駅なばかりか,切符売り場がない!そして,自販機に運行状況が!


味わい深い.


(ちなみに後で,無人駅なわけではなくて,普段はカウンターに人がいると教えてもらった.休憩でも行っていたのではないかとの由.のどかだなぁ.)


駅前の商店街は思いの外大きい.やはり街道の宿場町という雰囲気がある.

シャッターが降りている店も多いが,居酒屋など夜の店のようだ.無料案内所まである.

ふと立ち寄ったセブンイレブンに塔婆があるので驚いた.


「この辺りではいつ卒塔婆を使うんですか?」

思わずカウンターの若い店員さんに聞くと,「ソトバ……?」と怪訝な顔をされた.


「あぁ,トウバ.ここらでは,春秋のお彼岸と,盆,正月,命日に墓参りをする時に,花ではなく塔婆を持っていくんですよ」


バイトではなさそうな,中年の女性が後を継いでくれた.


「宛先と施主の名,日にちを書いておけば,いつ誰々さんが来たかって分かるでしょう」

後で観光案内所で聞いた話によると,富士市・富士宮市の習慣で,付近ではミニ卒塔婆,と呼ばれているそうだ.もとは竹を削ったものに名前を書いて花瓶として,親せきや知り合いの墓に花を添えていたらしい.

特定の日にのみ参拝するのに,一年中売っているといるのは興味深かった.夜中に卒塔婆が必要なこともあるまいに.ホームセンターなどでも売っているそうだ.


「どの宗派でも支えるように,南無阿弥陀仏,とかは書いていないんですよ」


街道に戻り,歩いていると,雰囲気のいい茶葉販売店「くぼた園」を発見.


静岡といえば,お茶でしょう!

ここの若旦那の話がえらく面白くて,随分居座ってしまった.


曰く,茶葉は 4 人で 10g と言われるが,1 人で 2.5g ということではない.少ないと味が出ないので,2 人で 8g, 1 人で 5g 位が良かろう,と.

湯温が高いと渋味・苦味が,低いと旨味と甘みが出る.一杯目は好みの温度で 1 分程度,二杯目は熱湯で 10-20 秒.


「3 杯目,4 杯目はテキトーでいいです.テキトーで」


若旦那はニヤリとする.


水出しだと渋味・苦味はほとんど出ない.

「700 mL 10 g ぐらいで一晩と言われていますが,まずは 500mL 10 g で試してみて,自分の好みを見つけるといいですよ」

水出しした茶葉に熱湯を入れて二杯目を楽しむこともできる.これは試してみたい.


この店はオリジナルのお茶をたくさん備えており,一番安いもので 100g 324 円,高いもので 4320 円.でも,100g 1000 円が手土産の基準だという.

「こちらどうぞ」


若旦那の母親だろうか.穏やかな笑顔で小さな利き茶をくれた.「極香」というのだという.高級茶の真ん中.


「!」


低めの温度で入れたというお茶は,確かに甘味と旨味が強く,濃厚な味わい.

上質な菓子などと合わせたら旨かろう.


次いで同じ茶葉で二番茶を入れてくれた.苦味も出てきたさっぱりとした味で,食事と合わせるのに良さそうである.


「とても美味しいですね」

「そうですか.だいぶ味が変わるでしょう?」

「はい.驚きました.静岡茶は,何が特徴なんですか?」


静岡茶の味は,昔から作ってるから技術者がいること,土が合ってること,暖かい気候の三つがポイントのようだ.


静岡の他に九州も茶で有名であるが,九州は平地なので大型の機械が使える一方で,静岡は山間部なので,手か小型の機械で摘んでいることも特徴だという.


また,硬くて尖っている宇治茶が,色が薄く上品なのに対して,静岡茶はこってりしているという.


「宇治は抹茶を飲みますけど,静岡はあまり飲まないですね.うちも扱ってますが,茶道やってらっしゃる方とか,お菓子作る方くらいですかね~」


茶の品質を左右するのは,時期・場所・作り手.


茶摘みは春夏ならばいつでも出来るが,4-5 月がベスト. 茶は樹勢が強いので,摘んでも次の葉がすぐに出てくるが,最初の葉に 8 割の栄養を持っていかれてしまう.


静岡茶で有名なのは掛川と川根.一般によく飲まれる掛川は,味が濃くて甘味旨味がしっかりしている.天竜になるとかなり高品質.


「やぶきた茶というのは何ですか?」


やぶきた茶は品種で,静岡の 90%がやぶきた茶だそうだ.一番最初に静岡に伝わった茶葉.


「番茶というのは?」


僕,お茶は好きだからよく飲むんだけど,全然知らないんだよね.


「番茶は硬くて開いてしまった茶葉のことを言います.どの程度,という基準はなくて,作り手ごとで決めています」


若旦那は,どんな質問にも面倒くさそうな顔もせずに丁寧に答えてくれる.

商店街のパンフレットには,三人の若旦那が載っているのだけれど,こんな若者がいるなら,吉原はこれからにも期待できるのではないか.


最後に保管について聞いてみた.


茶葉は開封してからは 1 ヶ月程度が賞味期限.未開封は,常温でも 3-4 年,冷蔵庫ならずっと飲めるという.

茶葉は温度変化と湿気に弱いので,冷蔵庫に入れておいたものは一日室温においてから開ける (冷えた状態で開けると湿気を吸う).


お茶以外に吉原の話なども聞け,充実した訪問であった.

お土産に竹取の里を購入.極香より一つ上のグレード.


くぼた園: ★★★★☆ (何を聞いても答えてくれて,オモシロイ)


さて,若旦那に礼を言った後は,「吉原小宿」という観光案内所に行った.

「アノ,やってますか?」


ドアをくぐると,50 歳くらいの女性,M さんが迎え入れてくれた.


促されて椅子に座ると,ロールケーキと茶をくれた.「有難うございます.いくらですか?」

「いえいえ,いいんですよ.あるものを出しているだけですから」


リーフレットや地図をもらい,情報収集をする.


この観光案内所は,元々,鯛屋旅館という,天和 2 (1682) 年創業の旅館の一角にあったそうだ.


「でも古いものだから,エアコンもなくって,私も体を壊しちゃってね.それでこっちにきたんです」

「天和 2 年ですか!それ,まだ営業しているんですか?じゃらんでは出て来なかったけれど……」

「やってますよ.素泊まりなら 3450 円からですよ」


あっ,それは知らなかったな.知ってたら泊まりたかった.


鯛屋旅館:

https://www.fuji-taiyaryokan.jp

吉原の町は比較的裕福であったので,昭和 30-40 年代に商店街を,ビルに建て直しているため,鯛屋旅館も建物は新しい.

ただ,戦時中に建物疎開 (延焼を防ぐため,建物を間引くように壊す) の対象であったところ,その時の木材を使ったエリアが旅館の奥にあるそうだ.


M さんの名刺には,タウンマネージメント吉原所属と書いてある.地域振興に力を入れているエリアだと感じたが,やはり中心となる組織があるようだ.


大型店の出店や,中心市街地の活性化を盛り込んだ「町づくり三法」の一環らしい.以前,訪れて,地域振興に力を入れていると感じた,埼玉の小川町や秩父に通じるものがある.

でも,その活動は必ずしもうまくいっておらず,当初,国・県・市から補助を受けていた活動は,今は市と商店街に頼っていると言う.


「私の給料も,商店街から貰っているようなものですよ~」


M さんは笑った.


吉原宿の移動に伴い,神社仏閣も移動しているのが面白い.今ある宗教施設は,鬼門を守り津波から逃れるために,宿の北側にある.それぞれの守備範囲があるので,町の北側で,等間隔にあるというのだという.

6 月の第二土日には,祇園祭が開催されるが,この時期は仕事を休み,祭りに専念するのだという.大阪のだんじり祭りを髣髴する.10 年くらい前までは,地元のためだけの祭りであったが,今では 20 万人も集まる,大きな祭りになったのだか.


「今年は開催されるか,分からないですけどね……」


少し寂しそうな顔を M さんがするので「その頃の宿は混んでますかね?」と,微妙な返しをする.


「まだ開催するか決まっていないので,空きはあると思いますよ」


祇園祭が開催されるのか,目の端で追いかけておこう.


吉原の産業についても聞いた.

紙以外では車の部品が有名で,東芝,日産,ジャトコなどがあるという.

また,富士市には川が多くて,島という地名が多いとか.

富士市の紙は,家庭紙がメインで,紙バンド (紙の結束帯) も有名 (町内には,紙バンド工芸の店もある).

更に,靴ひもは日本一の生産量であった時代もあったという.


帰り際に,新型コロナウイルス感染者への差別を防ぐために作ったというブローチを貰った.確かに,靴紐っぽい.


他に富士市で有名なのは毘沙門天のダルマ市.日本で最大のダルマ市だという.他のエリアはその地域のダルマのみであるが,富士では全国のダルマが集まる という.

江戸時代に作られていた和紙の端切れで,ダルマが作られるようになったそうだ.


M さんは,富士山が世界遺産になった後も,富士市は何もしてない,とため息をついた.


街道に戻り,表富士なる土産物屋へ.

「吉原っぽいお土産ありますか?」

「それが,全然ないんですよ~.富士宮は,富士が見えるってプロモーションしてるのに,富士市は下手っていうか…….かと言ってこっちで作る感じでもないんですけどね~」

くるくるとした目の若い店主は,あっけらかんとしている.

オモシロトイレットペーパーでも勧めてくるかと思ったので意外.

「浅間神社ってとこに行こうと思ってるんですけど……」

「あっ,浅間さんね、すぐそこですよ.この道をずっと西に向かって,吉原本町って駅を……あっ,駅って言っても,バスターミナルなんです.騙されちゃいますよね~」


「長い地図持ってますか?」「東海道なら,富士山はそんなに興味ないですよね?」

早口に聞きながら,大量のパンフレットをくれる.親切な人だ.


吉原の人は,こちらがぼんやりしていても話しかけてくれるので有難い.かといって必要以上に踏み込んでくるわけでもなくて,居心地がいい.


昼ご飯を,アドニスのつけナポリタンと,鯛屋のそばで迷っている,というと「吉原でご飯なら,その二つは欠かせないですよね~.でも,どちらか一方なら,アドニス!なんと言っても元祖ですから!ご当地グルメですよ」

と力強い推薦を頂いた.よし,今日はつけナポリタンだ.


辞して帰ろうとしたら「せっかく来てくれたんで,これ持っていってください.トイレットペーパーだと邪魔でしょう?富士の水を使っているので,口でも拭いちゃって下さい!」とにこにこしながらウェットティッシュをくれた.


ん?今,商品棚から取らなかったか?

商品を売りつけるでもないし,経営は大丈夫なのだろうか.


しかるのち,この町で一番古いと言う和菓子屋,南岳堂に寄った.創業 170 年.


菓子型の横に置いてある電話番号のプレートの写真を撮っていると,若女将が説明をする.

「大正時代に,吉原に 80 本電話が入ったんですけどね,好きな番号でいいって言われたんですよ.その時の店主が,商売やってるから,末広がりで 88 にしたかったんですけど,80 までしかないから,68 にしたんです」


看板商品の栗まんじゅうと,大正時代からレシピを変えていない「トリパン」を買った.トリパンは,小麦粉・砂糖・卵・重曹のみで作られた,乾パンのような菓子だという.

後で食べたら,蕎麦ぼうろの食感と卵ぼうろの味で,大変旨かった.コーヒーにも,緑茶にも合う.

さて,土産物屋の女性のおすすめに従い,アドニスへ.

並んでいたので名前を書いて外に出ると,70 代くらいの旅行者 4 人が,明らかに飯屋を探してうろうろしている.

と,向こうから通りかかった同年代の男性が声をかける.

「昼ごはん探してるの?ここ,いいよ.つけナポリタンって言ってね,東京の一流のレストランで修行してきたらしいよ.スパゲティじゃなくて,ラーメンとスパゲティの間くらいの麺でね.ここじゃなきゃ鯛屋のそばだな」


吉原の人は,地元愛が強くてよく喋る.とにかくフレンドリー.

昨日の宿の女将が,住みやすいと言っていた理由を垣間見た気がする.


つけナポリタンの麺は,いわゆるつけ麺のように表面が不正で,つゆが絡みやすい.麺には生桜エビが乗り,意外と鶏ガラとトマトの漬け汁と合う.スープはあっさりしていて,チーズの濃厚な味が補う.

アドニス: ★★★★☆ (ご当地もの)


スープ割も飲んで満腹になった腹を抱えて,三日市の富知六所浅間神社へ.中々立派な神社で御朱印もある.


参拝を終えると,横に見慣れないものが売っている.


厄割玉.


「厄」と彫られた中空の焼き物である.願いや厄を書いて,的に当てて割るというのだ.

初めて見た.


折角なので,厄を書いて,割っておいた.

いい年になりますように.


富士川を越える頃にはあたりはすっかり暗くなってきた.


ここでまた坂.うっ.箱根を思い出す.

しかし!箱根の山を越えた僕には!この程度の!坂など……!


へとへとになったところで,富士川駅の光が見えた.今日も結構頑張った.


腹もほどほどに減ってきたので,駅前の和食屋「勢月」に入った.

座ると,脚が悲鳴を上げていたことに気づく.本日 23000 歩.


突き出しはマグロの山かけ.


自然薯は濃厚な食感と香りなのに,マグロのブツ,ネギトロ,卵黄と混ざると,むしろ爽やか.


とりしょうがコロッケ 780 円.生姜の爽やかさと芋の甘さが,甘酒を彷彿する.

酢の物 450 円は,ズワイガニ,イカ,ワカメ,キュウリ.

あっさり目の酢味噌は,魚介類の甘みを際立たせる.

アスパラの天ぷら 750 円は,ほくほくとしたアスパラに軽やかな衣が合う.

静岡の日本酒を置いてくれているところが嬉しい.磯自慢 800 円はさっぱりとした飲み心地.


勢月: ★★★★☆ (結構いい店なんだけど,店員がノーマスクなのと,全席喫煙席なので,3.5 寄り)


さすがに食べすぎた.さぁ,現実に帰るか.


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