20220321 水のない川のほとりで餅を食う
【東海道:府中宿(静岡)~丸子宿】
朝はローソンで、無理やり静岡を意識した松福のおにぎりと長泉サンドイッチを購入。
前者は静岡のラーメン店とコラボしたもの、後者は静岡県長泉町のご当地メニュー。
立ち上がると、身体がミシッと音を立てる。昨日の朝はふくらはぎだけだったが、今日は太ももの付け根にもじんわりと。あ、脚が痛い……。
静岡駅のあたりは東海道はやたら道が曲がっている。駿府城を攻めづらくしているのだろうか。
街中は石碑がいろいろ置かれているので、いちいち写真に撮る。そんなものを撮ってどうするのだろう、と我ながら思うのだけど。
いいんです。歳をとって身体が動かなくなったら、撮りまくった写真をVRで流して、デジタル旅を楽しむのッ。
おっ、わさび屋発見。田尻屋総本家。創業宝暦三年(1753 年)。調べてみると、確かに日本のわさび漬けの元祖、本家、本舗のようである。
どちらかというとわさび漬けは苦手なので、スルーしてしまったが、総本家で食べたら、わさび漬けに対する認識が変わったのかなぁ。
さて、街のはずれには安倍川が流れているが、そのたもとに石部屋(せきべや)という菓子屋がある。1804 年創業。元祖安倍川もちを注文。
Googleで店主が感じ悪い、と書いてあったけど、そんなことなかったけどなぁ。普通に寡黙な職人という感じ。
もちも柔らかく、美味かったよ。
安倍川もちは本来、湯で柔らかくした餅に、きな粉と砂糖をかけたものらしいが、多くの店であんこ餅も一緒に出すようだ。
石部屋:★★★★☆(店構えも江戸っぽい雰囲気を楽しめる)
肝心の安倍川はほとんど水が流れていない。随分大きな川なのに。
昔も、船ではなく人夫に背負われて渡ったというから水量の少ない川なのだろう。体のどの位置まで水があったかで、料金が変わるのは面白い。
川を渡って程なく、「高林寺」に出る。灸で有名だったらしい。参拝し、手書きの御朱印を頂く。
「どちらからいらしたんです?」
「東京からです」
「ほう、何しにいらしたんですか」
「東海道を歩いているんです」
「そうですか。いいですねぇ」
旅をしていると、この人も旅を好きなのだろうなぁ、という人に出会うことがある。
このご住職も恐らくご同胞。ただ、ご住職という仕事柄、長期に出かけるのも難しいだろうしなぁ……。
御朱印のお礼を言って去ろうとすると、住職が正座し、三つ指をついて、「どうぞお元気で」と見送ってくれたので、きちんと向き直り「ありがとうございます」と返した。
いかんいかん、日本の心を忘れるところであった。
更に歩くと丸子(まりこ)宿に来た。東木戸と江戸方見附の碑の位置がずれているのは何でだろう(両方とも宿の端を意味する言葉)。
丸子宿は東海道で一番小さい宿であるが、一般の家に年表や屋号が飾ってあったり、昔風の看板がかかっていたり、企業の看板に「丸子宿」と書いてあったり、なかなか町おこしを頑張っている。
ところで、丸子にはお目当てがある。
とろろ汁「丁子屋」。なんと1596 年創業!安土桃山。江戸時代ですらない!
頼んだのは百福 3080 円。名前からしていいじゃないか。
とろろご飯のほかに、揚げとろ(海苔)2ヶ、むかごの揚げ団子1ヶ、自然薯すりおろし体験、珍味2種、甘味、フルーツ。
まずは自然薯のすりおろし。
サメ皮で擦っているだけで、ふんわりといい香りがしてくる。
おろし器からすり鉢に落とそうとしても、移動しない。つきたての餅のような粘度。
ナンダコレハ。
すり棒でちょいちょいとつつき、むりやり落とし、わさび醤油と混ぜて口に運ぶ。
自然薯って、こんなに豊かな香りがするのか!
ねっとりというより、もっちりとしたとろろは、舌を包んで離さない。そしてそのとろろを、僕の口が包む。
口の中に広がっているのは、とろろではない!幸福だ!幸福が口の中に広がっている!
うまい!
思わず目をつぶり、触覚と味覚に意識を集中する。
丸子の地酒「鞠子の宿」に負けない味と香り。
そして麦飯にとろろ汁をかける。
あれだけ濃厚な自然薯のあとで、大丈夫かな、と口に流しこみ、刮目する。
そうか!江戸も丸子も、空を抱いているのだ!天のように、とろろの幸福にも、限りはないのだ!
出汁と白味噌が入ったとろろは、粘りこそすりおろしより少ないものの、負けず劣らず香り高い。
しかも、揚げた用宗産たたみいわし、揚げとろの海苔、ちりめん山椒、ムカゴの梅肉がけ、漬物、みそ汁、全て手を抜いていない。
おひつに盛られた麦飯は大きな茶碗に 4 杯もあったが、箸休めを間に挟むと、飽きずに頂ける。
ただし、舌と胃は別なので、腹はかなり苦しくなった。
併設された博物館は、ごく小さいのだけれど、十返舎一九の弁当箱だの、大政奉還を知らせる考察だの、歴史に疎い僕すら楽しませてくれる。
丁子屋: ★★★★★(アクセスが悪いので 4.5 点くらいかも知れないけど、ふと旅に行きたくなったら、ぜひ訪れてほしい)
丸子は「日本紅茶の発祥の地」と呼ばれている。
多田元吉という人が明治政府の肝入りで、もともと茶が有名だったこの地で作り始めたとか(大分や熊本でも作ろうとしたがうまくいかなかった)。
というわけで、喫茶店に行こうと適当に歩いて見つけた、喫茶よもぎ埜という店のドアを開けた。すると80 代ほどの地元民が、カラオケで演歌を歌っていた。明らかに地元の集会所。
「ガス燈もうるむ~。港ヨコハマ~。誰かあいつを知らないか~」
たまにパラパラと拍手をしながら、横では同年代の男女が数名、話に興じている。
いいなぁ。こういう歳の取り方。
若い頃は、成功して、華々しい人生に憧れたこともあったけど、自分を受け入れてくれる人と、何てことない毎日を過ごすのが一番だよ……。
優雅とはやや違うんだけど、和んだ気分で丸子紅茶を飲んだ。
紅茶自体は渋めで、特記すべき味ではなかった。茶菓子が柿ピーなのが、趣深い。
よもぎ埜:★★★☆☆(丸子紅茶が飲める他は、普通の喫茶店)
さて、歩くぞ~~。
電車はないので、バスの地図と時刻表と睨めっこし、宇津の谷峠の道の駅まで行くことにした。それなら次回、再開しやすい。
復元された高札を眺めたりしながら、一時間ほど歩いたが、道の駅は閉まっていたので、バスで静岡駅へ戻った。
昨日のおでんの恨み(?)を晴らすために、「海ぼうず」に来た。
静岡おでんの盛り合わせ 10 本 990 円、富士宮焼きそば 640 円。
それぞれ、黒い食材にだし粉がかかっていて、静岡のイメージが作られていく。
酒は「静岡ドリンク」とやらを色々頼んだ。みかんサワーとか、みかんビールとか。悶絶したのが「オクシズロック」。わさびを漬け込んだ焼酎。辛い!
わさびの香りがするのかな、という程度ではない。辛い、辛い、辛い!
みかん系は絞っているのだろうか。爽やかで美味しかった。
海ぼうず:★★★☆☆(注文のあと出てくる時間が早いのはいい)。
さて、東京へ帰るか……。
静岡駅にはひかりが止まるので、家まで一時間半!
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