20220319 蒲原のイルカ
【東海道:富士川〜蒲原宿〜由比宿〜興津宿】
さて、10:30 頃東京駅からこだまに乗る。
小田原、熱海と過ぎると、結構遠くまで来たな、という気がしてくる。
今回、新幹線は三島で降りて、東海道本線で前回の終点、富士川駅へ向かった。
昼はうどん屋へ。富士川駅の周りにはあまり店がないので、讃岐うどんだけど、まぁよかろう。
かけうどん 1 玉 385 円、コロッケ 154 円、油揚げ 143 円。
で、前回の続きまで行き、街道歩き再開。
一時間も経たないうちに蒲原宿へ。
ところどころ古い建物もあり、街道歩き気分を味わえる。
と思った飲んべの目に、酒屋が入った。
酒はともかく「蒲原名物 イルカすましあります」と書いてある。「酒のつまみに最高!」
ナンダ、ナンダ?
「こんにちは〜〜」
ドアを開けると電子音楽が鳴った。
店内は真っ暗で、どうしようかと思ったが、奥の方に人影が見える。
天井近くに角樽(つのだる)も飾ってある。歴史のある店なのだろう(後で聞いたら,昔は造り酒屋だったらしい)
「はーい」
丸い顔をした中年の女性が、にこにことして出てきた。
「表に"イルカのすまし"って書いてありましたが……」
「あぁ、すましね。1000 円になります」
「いや、あの、何ですか?イルカのすましって」
「あああ〜。ええとですね,生のイルカの背びれと尾びれを細く切ってね、茹でて、塩で味付けするんですよ。半日くらい置いておくの。獣っぽい臭いがするので、好き嫌いがありますけどね〜〜」
彼女は横の冷蔵庫からビニール袋を取り出すと、一口食べさせてくれた。塩っぱくて、脂っこい。確かにこれは、好き嫌いが分かれそうなところ。
しかし、名物と聞いたら、買わないわけにはいかない。
辞して街道を進むと、本陣がある。正面にはかつての旅籠「和泉屋」。
かつては本陣に泊まった主人のお付きの者たちが泊まったのだという。
今は当主の家と、お休み処になっているのだけれど、土産物屋と藍染めの展示くらいで、茶などを飲めるわけではない。
夏になると、発酵させていない藍で生葉染の体験が出来ると言っていた。
蒲原で面白かったのは、志田邸。蔀戸(しとみど)の内は、広間になっており、今はひな人形などを展示している。
「こんにちは~~」
戸を開けると、目の前のテーブルに、ベージュのコーデュロイの帽子を被った、ちょっとおしゃれな爺さんが迎えてくれた。博物館の守り人である。
以前は醤油蔵だったそうで、ここで販売をしていたようだ。江戸時代には、船で江戸まで醤油を売りに行っていたという。
今の建物自体は、安政の大地震後に建て直したもの。案内の人は、静岡の旧東海道では、新居の関所に並ぶ古さだという。
吉原と同じように、このあたりも津波で東海道のルートが動いたらしい。1700 年ころだというのだけれど、ウラは取れていない。
上の写真で手前にあるのは、「駿河天神」と言われ、昭和 50 年頃まで男の子が生まれると母親の実家から贈られたのだという。ひな人形と五月人形の間くらいの感じか。
ひな人形もそうだったのだけれど、子供が大きくなると、置いておく場所のない家では、海に流したとか。お雛様も同様。
志田家は蔵があったので、残っていたとの由。
籠や馬は、片道しか客を乗せなかったという話は興味深かった。
江戸で客を乗せて蒲原へ来ても、帰りに蒲原で客を乗せて江戸へ帰ることはまかりならなかったという。今のタクシーの営業圏を髣髴し、面白い。
江戸幕府が長く続いたのは、庶民の生活を継続させることの重要性を理解していたからではないだろうか。
ついでなんで、蒲原の食生活について聞いてみたら、この辺りは漁師と農民が多かったので、醤油は濃く、すし飯は砂糖が多い、強い味付けだという。
イルカについて聞くと、蒲原でイルカが獲れるわけではなく、伊豆西海岸の網漁で捕らえたイルカを切って干して、持ってきたのだという。尾びれと背びれのみの「すまし」は高級品で、普通は身の部分を食べるそうだ。
「最近では珍しくなりましたが、私が小学生の頃、昭和 35 年ころはよく食べてましたよ」
なんでイルカなんですかね、と聞いたが「何でですかね。他の魚はもっと美味しいから、伊豆で食べちゃうんですかね」と確かではない。
その後,小さな中庭を見せてもらった。
「それ、その植物の名前が一両、十両、百両……。こちらは商家でしょう、縁起がいいから、植えているんですよ」
千両、万両もある。全て赤い実がついているが、僕にはその違いは分からない。
醤油工場を見せてもらいながら、更に話を聞く。
近くにある日本軽金属蒲原工場は志田家が提供した土地で、軍機を作るアルミを生産していたことから、蒲原も空襲を受けたそうだ。古い家が結構残っているので、空襲を受けていないのかと思ったが、そうではなかった。
志田家で大分時間を使い、15:00 頃蒲原を出た。
木目も鮮やかな町屋も何軒か見かけたので、昔の雰囲気を残そうという意思も感じる。
あとは黙々と歩き、由比へ。
前回来たのが 2020 年 9 月なので、一年半前かぁ。しみじみするなぁ。
本陣公園で、あんみつと茶で休憩。
甘味が身体に染みる……!
しかし、今日はなんとしても興津に辿り着き、ちょっといい宿で飯を食うミッションがあるのだ。
キリ、と空を睨み、道を急ぐ。
とは言え、由比は前回歩いているので、寄り道せずに歩ける。
あーー、ここ来た、ここ来た。やたら詳しい爺さんが話してくれて面白かったなぁ。
そうそう、桜エビも食べたなぁ。
ただ歩くというのもツラいので、前回の記憶を反芻し、己を騙す。
まぁ、情緒のあるいい道なんだけどね。
薩埵(さった)峠にてツラさ極まれり。
箱根と並ぶ難所と言われていたことを思うと、そこまででもねぇかな、と思うが、過去と比較してもしようがない。
イマ、ツラいんです!足が!腰が!
峠の上からは駿河湾が見渡せ、気持ちがいい。
あと、もうちょっと頑張るか……。
前回は展望台で由比に戻ったので、峠の先は未知の世界。いざ!
おおむね山道でしたな。
嫌いじゃない。
下界に降り立つ頃には、辺りはうっすらと暗くなっていた。山道で暗くならなくて良かった。
本日の宿、岡屋には,夕飯ギリギリの 19:00 前に飛び込む。
飯前に風呂どころではなかった。いや、それ以前にこの宿の風呂は完全予約制で、好きな時間に入れるわけでもない。
夕食はかなり美味かった。薄味で量が少な目なので、若い人には物足
りないかもしれないが、中年にはちょうどいい。
りないかもしれないが、中年にはちょうどいい。
メニューを見ていて気付いた。
サーモンのカルパッチョ風ポポーの香り?
「アノ、ポポーって何ですか?」
「あぁ、北米原産のフルーツでね、バナナみたいな、マンゴーみたいな……カスタードクリームって表現する人もいますね。あとでジェラート食べます?」
「食べます、食べます」
ジェラートはねっとりとした甘さの中に、みかんのような爽やかさが感じられた。
ホホー。ポポー。
風呂に入ってから、昼買った「イルカのすまし」を肴に、正雪の純米吟醸を傾ける。
イルカは……く、臭ぇ。いやまぁ、僕、ジビエ嫌いじゃないから、そんなにダメではないけど。
触感はコリコリ、とグミグミ、の間ぐらいで、軟骨に近い。
味はイノシシ脂のような……。ううむ、不思議な食い物である。20 g くらいの小売りだとありがたいなぁ。
まぁ、これまでに食べたことのある食べ物の中では、クジラのベーコンが一番近いけどね!
後半はおきつ川の純米酒。さっぱりしている。
臭みと酒の中で、夜が更けていく……。
0 件のコメント