20210417 江戸の中山道は賑わいを見せる - 3/3
【中山道: 巣鴨~板橋宿 (平尾宿・仲宿・上宿)~戸田橋】
さて,荒川がついそこまで見えると,旅の終わりはすぐそこに.
荒川の手前に新河岸川という川があるが,その袂にある錦寿司という寿司屋に入った.広い店内には一組の男女しかいない.
奥方と飲んでいる常連客は S さんといって山の会の会長の看板屋だという.
カウンターの角の向こうとこっちで,話をする.
彼がこないだ山で「こーんな」いっぱい取ってきた山椒は彼の手で佃煮となり,今僕の口の中に.調子良くべらんめい調で語る体からは想像も付かない繊細な味付けで,鮮烈な香りが,酒に合う.
酒は「宮城の冷酒」とのみのインストラクションを得たが,なかなか悪くない.
S さんは福島と新潟の境で蕨,埼玉でタケノコと山椒を取ってくるのだ,と言っていた.しばらく山の恵みの話で話が弾む.
「このキノコは香茸 (コウタケ) と言って,毒キノコでね……」スマートフォンで,真ん中が凹み,表面のざらざらしたキノコの写真を誇らしげに見せてくれた.後で調べてみると,生で食べると中毒を起こすが,松茸よりも香りがいいと言われているそうだ.いつか食べる機会に恵まれてみたい.
S さんの取ってきたタケノコの後,お任せで握ってもらった.
マグロ,イカ,カワハギ,カンパチ,巻き寿司.酢飯がやや硬く味が薄い気がしたが,魚は旨い.特に,巻き寿司は盛りだくさんの具が,程よく混じり合っていて,非常によろしい.
山の話のほかは,知り合いの力士がこの店に来たという話や,S さんと同じく某温泉街の出身の野球選手の話など.
酒の入った頭で,「そりゃあ,いいですねぇ」「えっ,何で,それが」などと相槌を打ちながら,楽しく酒を頂く.
寿司屋のマスターと S さんは一緒に S さんの弟のいる礼文島へ行ったときの話を披露してくれた.
「"ちどり" のほっけのちゃんちゃん焼きは是非食ってくれよ!」
「"さざ波" ってのもいい店でねぇ」
「あぁそうだ."さざ波" もいい店だ」
「行ったら S が宜しく言ってたよって伝えてくれよな」
あたかも僕がもう,礼文島への旅を計画しているかのような口調である.
「礼文のジンポーフーズなら,東京までほっけ送ってくれるからね!」
店を出てから,戸田橋へ向かう.
昔戸田の渡しがあったところに戸田橋があり,昔のルートと同じなので,街道をなるべく忠実に歩くという方針でも大回りをしないで済むので有難い.
土手から埼玉を眺める.滔々と水を湛えた荒川は,向こうとこちらの境界を誇示する.
板橋宿で見送りの者と別れた江戸の民にとって,ここからが真の旅だったのだろうか…….
大なり小なり旅をしていると,様々な人との出会いがある.恐らく,ほとんどの人は二度と会わないはずなのに,なぜだろう,親しく感じてしまうのだ.
二度と会わないのに,共に笑い,共に驚き…….怒り,悲しむこともあるだろうか.それはこれまでの僕の人生とも重なり…….
今笑い,今怒り,今喜んだことが,僕が生きてきたということなのだと思う.その感情の揺れ動くとき,誰かが傍にいることは,とてつもないギフトなのではないだろうか…….
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