20131027 コインブラの町にファドは響き渡る

【ポルトガル，コインブラ】

遅めの朝食を頂き，宿を発った．他のヨーロッパの大きな町と同様，リスボンも地方に行く電車の出発駅は目的地によって異なる．

コインブラは Santa Apolonia を経由して行くため，Parque 駅から地下鉄 Azul 線に乗った．リスボン市内の交通は使い捨ての切符がない．0.5 ユーロでチャージ出来る viva カード (と言っても紙製のシンプルなものなのだが) を買って，一回分，或いは一日分という単位で払っていくのだ．地下鉄，バス，市電 (路面電車)，ケーブルカー，エレベーターのいずれも，大抵一回 1.4 ユーロ，一日でxユーロなので，一日に乗る回数を考えて使ったら良いと思う．乗り放題には幾つかの観光地の入場料も含まれるようだ．地下鉄で郊外まで行く時はゾーンをまたぐため一回料金が異なる．

Santa Apolonia 駅でコインブラ駅までの切符 19.2 ユーロを買ったが，あと一時間半もある．

荷物をロッカーに入れようと思ったが，1.5 ユーロ分の小銭がない．何か買って札を崩そうと，構内の小さいスーパーに寄った．意外なほど品揃えがよく，例によって 1メートルもありそうなバカリャウたちを見ていたら，チマチマ預けることがバカバカしく思われ，荷物を背負い直して外に出た．

蒼天に家々の白い壁が映える．目の前に軍事博物館，横に船着場があるので，どちらかで時間を潰そうと思った矢先，ヒョイと向こうに美しい白亜のドームが見えた．サンタ・エングラシア教会である．

やることもないので，ぶらぶらと向かうことにした．アルファマと呼ばれるこの地域は，イスラムの影響を残していると言われている．

細い道をくねくねと登っていると，角を曲がる度にカラフルな壁が目を刺し，ハッとさせられる．

道端にバーベキューセットを置いて，どうも自分一人のために肉を焼いているらしい男もいる．
サンタ・エングラシア教会は，中を覗いたら，広いドームになっている．300 年もかかって建てられたために「サンタ・エングラシアのように切りが無い」と言われるようになったのだという．

残念ながら時間がないので，覗いただけで駅に戻ることにした．駅前で薄いトンカツのようなものを挟んだサンドイッチと，洋梨のネクターを購入し，無事乗車．

列車の座席番号の付け方がわかりづらく，戸惑う．窓際の82番の左横は88番，通路の向こうが84番，さらに向こうの窓際が86番．その後ろが85番，右に向かって 87番，83番，81番．

理由を考えてみたが，あまりピンとくるものが思い付かない．

13時半，定刻通りに Braganca 行きの電車はリスボンを発った．あっという間に町外れとなり，畑が広がった．

僕は田舎暮らしの経験は少ない．しかし大学時代を過ごした村を思い出すと，自分が生きていくために必要なものは本当に少ないと思う．

洗練された服や世界中の雑貨，厳選された食材や最先端の電化製品に囲まれて，人に会ってばかりの生活をしていると，自分がそれら無くして生きていけないような気がしてしまう．
だけど最低限の衣食住のほかに，自分が愛し，自分を愛してくれるものが，そんなにもたくさん必要だろうか．

僕は都会で生きていくよりも，田舎で生きていく方がいいとは思わない．
生まれたクニで生きて行くよりも，それ以外のクニで生きて行くことがいいとも思わない．
だけど，日本の都会でこのまま暮らし続けるということの代償を思うと，時に立ち止まってしまう．

多くの人は人生という旅の舵を保護者から受け取る．幸か不幸か僕の価値観において，国家や宗教は強大な保護者ではなかった．だから僕の人生の舵は自分でとっていると衒いもなく言える．
自分の人生を誰かの責任であるという考え方は，無駄なストレスを避ける上で賢明なのかもしれない．でも今の僕は，自分の人生という実験場で他人の選んだ結論なんて見るのは真っ平だと思う．例え間違えであったとしても，自分の立てた仮説を検証する人生の方がマシだと信じている．

緑の畑に白い壁と明るい煉瓦色の屋根を持つ南国風の家が点在している．空は抜けるような蒼．

リスボンからコインブラB駅まで約2時間15分．ローカル線に乗り換えてコインブラ駅まで約5分．コインブラB 駅までの指定席の乗車券のみで買い足す必要はない．

Hotel Vitoria にチェックイン．新しく，川の見える部屋で 28.3 ユーロはかなり安く感じる．

しばらく休んでから，街に出かけた．夕飯には少々早く，観光にはやや遅い時間である．
しばらくモンデゴ川を眺めてから，コインブラ大学に向かった．1290 年にこの大学が作られて以来，文化の中心，学生の街なのだ．

Fado ファドとはポルトガルの民俗歌謡で，コインブラのそれは学生が発展させた．歩いていたらちょうど始まる時間だったので，"Fado ao Centro" という小さなシアターで Fado を聞いていくことにした．

黒いマントをはおり，一人はギターラ　(ポルトガルギター．丸い本体が特徴)，一人はヴィオラ (いわゆるギター) の伴奏に合わせて，歌い手が歌うスタイルが一般的である．
移民の曲から恋の歌まで，様々な曲目で楽しませて頂いた．

恋の歌といえば，意中の女の子の気分を盛り上げるために演奏して貰うとき，もっと曲を，という時は(要するに一曲の間に口説けなかった時) は咳払いをするとのことで，恋の歌の後は，拍手の代わりに咳払いを皆でしたのが面白かった．
夕食は宿の近く，Caldo & Caldo で，Alheira Mirandela c/ Ovo．なる，鷄とパンの揚げソーセージに目玉焼きとポテトチップス，サラダ，ご飯のついたものを頂いた．Milandela，Muralhas de Monção の白ワインと一緒に．
ソーセージと書いてあるのだが，パン成分が多く，腸も使っていないので，むしろ揚たての薩摩揚げを彷彿する．なかなかウマい．

今日も大分遊んだ．
コインブラは明日観光しよう．

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