20131230 野性を失ったペンギンは急峻な坂を登れない

夜中にインターネットで延泊の申し込みをしたので,今日も泊まりますか,という宿からのコールで目が覚めた.

コーヒーで一服してからツーリストインフォメーションへ向かう.

途中の "breakfast all day" と掲げた Governor's cafe で食事することにした.
ニュージーランド最古の大学が近くにあるからだろうか.カフェの壁はボールペン描きの絵が所狭しと貼られている一方で,演奏会などの情報も掲示されていて、学生街の雰囲気を醸している.



Salmon eggs Benedict,スモークサーモン,ポーチドエッグとホウレン草の乗ったシアバタートーストを頂いた.酢の効いた卵を崩し,脂の乗ったサーモンに黄身を絡めて食うと美味い.

昨夜,間際の予約では大したことはできないものと諦めたので,ツーリストインフォメーションでは余り期待せずに話を聞くことにした.夜空で有名なレイク・テカポ経由でクライストチャーチへ行くことは,宿と移動手段含めて確定できなかったが,本日のペンギンプレイスを含む Monarch 社の一日ツアーは予約できた.ツアーから帰ってくる時間は遅いので,明日以降の予定表は宿に届けておいてくれるという.

「テカポで宿が取れなかったら,直接クライストチャーチに行くことになるけれど,いいわよね?」

ツーリストインフォメーションの女性が念を押すが,はい,としか言いようがない

話半ばでペンギンプレイスに向かうマイクロバスが迎えに来た.慌ただしく乗り込み,オタゴ半島を北上する.ペンギンプレイスは半島の先端にあるのだ.

半島では,地元のアーティストが彩ったバス停や,ヨットハーバー,大型船の荷下ろし場,スコットランドの同名の地名から名付けられた「美しい港」など見せてもらう.
予定表には 20世紀の不動産王が作った「ニュージーランド唯一の城」も書いてあったが見られず.

ペンギンプレイスに着くと,まず簡単な説明を受ける.ここには主にイエローアイドペンギン,日本語ではキガシラペンギンという,目から頭にかけて黄色いペンギンがいる.成鳥で約 70 cm.
ニュージーランドの 5 ドル札に描かれているのはこのペンギンである.



多くのペンギンは大きなコロニーで子育てをするが,イエローアイドペンギンは集団を好まず,番いで巣を作る.更に泳いでいる魚しか食べないなどの習性もあり,南島南東沿岸にいる1000頭と,二つの離島にいる3000頭の野生のものしかいない.

ちなみにこの地域には人の背丈ほどもあるペンギンがかつて住んでいたが,現在世界で最も大きいのは皇帝ペンギンである.


一通りペンギンに詳しくなったところで,寒さ対策と目隠しのため,カーキ色のレインコートを借り,5分ほどバスに揺られて,海辺に輸送される.

複雑に掘られた塹壕を通り,現在ペンギンが海から帰ってきている巣を目指した.ガイドブックにはペンギンは朝と夕方は巣に帰ってきていることが多いと書いてあったが,案内人に聞いたところ,日に寄るとのこと.やや偏りがあるという程度か.今は四匹が巣におり,うち一匹は雛だという.

牧場として開墾されたこの土地の持ち主は,ペンギンを再び森で生活させるため,植林を始めた.
今はまだ,二枚の板を組み合わせた小さな三角の空間に巣作りをしている.元の環境を戻すには,長い年月がかかるのだろう.

静かに,とガイドが口に指を当てる.順に藪の影から覗くと…いた.



生後六週間の雛は,既に親鳥の9割程度の大きさである.ダークグレーの毛羽に包まれた姿は実に愛らしい.

巣の中では見づらいという一行の願いが聞こえたのか,まず親鳥,次いで雛鳥が外に出てくる.



目付きの悪さは中々のものである



ペンギンは二本足で歩くせいか親近感を覚える.
と,そっと向けたカメラに近付いてきた.



レンズ越しに見つめ合う緊張感に,思わず息をこらす.
ああ,お前はそこにいる.



更に歩を進め,別の巣の番いを見た.お互いに毛繕いをして,仲睦まじい.



地下通路から這い出,今度は小高い丘から海を見下ろした.親しい筈の太平洋が,ずっと会っていない親戚のように余所余所しい.



岩の上にアザラシが大量に寝ている.ここに寝ているのは,伴侶のいないオスばかりで,メスや子育て中のアザラシは,別のところに集まっているのだという.

道脇に,現存する最小のペンギン,ブルーペンギンがいた.巣の陰からこちらをちらちらと伺っている.


一旦先ほどの場所に帰ってレインコートを返した後,更にバスに乗せられて,船着場に出た.
ここから湾内の動物を見るクルーズなのだ.


今度はメスのアザラシ.
近くに野営地のあるアルバトロス (アホウドリの一種) など,様々な鳥.鵜の類も多い.
首だけ水面に出している鳥.ヘビウ (蛇鵜: Anhinga) の類だろうか.


イルカが見られることもあるそうで,半島の先の外海まで出たが,今回は見られず.

赤いプランクトンのような生き物が群れを成しているのだが,帰国後,幾ら調べても何であったのか,答えが出てこない.現地で答えを聞いてくれば良かった.



大きくもない船で波に揺られていると,飲まれてしまいそうな錯覚に陥る.ふと海の美しさが,悲しみを包んでくれることを願う.


湾内を航行する頃には,再び雨が降り始めた.
夏のニュージーランドは日が長く,22時位まで暗くならない.


まだ明るい町を旅行会社の車で the Reef まで送って貰った.
水槽の置いてある店内は,中央にバーがあり,洗練された雰囲気である.
エビの乗ったステーキを,Central Otago は Mt. Difficulty,Target Gully のリースリングと,Rua のピノノワールで頂いた.


明日はどんな日になるのだろうか.
早く宿に帰って旅程を確認すればいいのに「そういえば,ダニーデンに,ギネスブックに載っている坂があったような…」などと余計なことを思い出す.

ガイドブックの地図には載っていないのだが,宿で貰った地図で見ると,町の中心と宿までの距離と同程度の位置に見える.歩いて 10 分というところか.
今日はバスやら船やらで余り歩いていないので,腹ごなしも兼ねて行ってみることにした.
…結論から言うと,地図の縮尺は中心地と郊外でずれていて,30 分以上歩く羽目になった.

ふと見ると急な坂がある.これだ!


…なぜ人は,過ちをおかすのか.
なぜ人は,自分に都合のいい解釈をしたくなるのか….

息を切らせながら坂を登り切り「まあ,あれだな,横浜の坂は奥ゆかしいから主張しないが,ギネス位イケるんじゃないか」などと思うが,段々不安になってくる.

ギネスに載るほどの坂が,一言も書いていないということがあるだろうか.そもそも,世界一の坂に,路上駐車などあっていいのだろうか….
停まっているタクシーの窓を叩き,聞いてみた.
「Boldwin street は,あと,5本…いや 6 本くらい向こうだよ」
僕が息を切らしなが坂を登ってきたのを見ていたのだろうか,気の毒そうに教えてくれた.

「アノ,乗せてくれたり…」
「悪いけど,客を迎えに来たんだ」

夕闇の迫る中,もう諦めようかと思いながらも,これだけ歩いたのだから,と往生際悪く歩を進める.博打で失敗するタイプである.


あった!今度こそ.
最も強い傾斜部分で,1/2.86, 約 35% の勾配.20 度,と思うと,意外と緩やかな気がするが,登ってみると,過ちであることに気付く.



途中に路上駐車がないことも,坂の急峻さを示している.



家と塀の角度の違いは思わず目を疑う.

薄暗くなった崖のような坂を登っている夜中にただ坂を登っている自分の馬鹿さ加減に笑いが漏れてくる.



坂の上から眺めると,急峻さを実感できる.


薄暗くなった町をホテルに向かう.雨も降り始め,意外と町の中心部から遠かったことに気付く.ツーリストインフォメーションで渡された地図の縮尺がゆがんでいなければ,来る段階で断念したかもしれない.

宿に帰り,明日以降のチケットを確認した.
星空保護区,レイク・テカポで年を越せそうだ.

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