20220425 砂ぼこりに町はけぶる
朝食は煮豆、鶏のトマト煮、ゆで卵、オムレツ。うっかり卵を大量に食べてしまった。
本日の会議は昼前なので、部屋でしばらく仕事してから、出かける。
ホテルのフロントにモハメドおじさんがいたので話をしていたら、彼はアファル族(エチオピア系)なのだという。
「彼女はイッサ族(ソマリ系)」フロントの内側の女性を指差して言った。
ネット情報では、二つの部族は、衝突を繰り返しているらしいけれど、町では普通に生活しているのだなぁ。
契約交渉は意外にすんなり。明日の仮契約は問題なくいけそう。
事務所で事務作業。16:00 頃終了。
車で帰ろうとすると、空が暗い。雨でも降るのかな、と見上げると、黄色のようなオレンジのような不思議な色になっている。
走り出して、ドライバーのアナハラは「ちくしょう」とつぶやいた。「嫌な天気になったな……」
「恵みの雨ではないの?」と聞くと「そうじゃない」と言ったきり黙ってしまった。運転に集中しているようだ。
しかたないので、僕らも黙った。
「あれ、砂嵐じゃないですか?」
若い同僚 S さんが前方を指差す。
確かに視界がベージュ色に曇っている。
「黄砂みたいなものですかねぇ……」
しっかり者の N さんもつぶやく。
スーダンにいるときに、強い砂嵐のことをアラビア語でハブーブというと知ったが、それみたいなものだろうか。
ホテルに着く前には、ぽつぽつと雨まで降り始めて、なんだかよく分からない空模様になった。
ホテルに帰ると、フロントにはサングラスをかけてギャングのような面持ちのモハメドおじさんがいた。
「すごい天気ですね。時々こうなるんですか?」
「いや、全然。オレは初めてだよ、これまでの人生で」
「砂ですか?」
「いや、埃だろう」
S さんは「ラッキー、なんですかねぇ?」と独り言ちる。
「そう言われると、何かいいことの気がしてきた」と僕。
部屋に帰る前に、モハメドおじさんに「ソマリ料理のレストラン知りませんか?」と聞いてみた。ジブチ料理は、ソマリ・エチオピア・イエメン・フランス・インドなど、多国籍の影響を受けているというが、これまでエチオピア・イエメン・フランス料理は食べたけれど,ソマリ系は食べていなかったのだ。
「知ってる、知ってる。そこら中にあるよ。明日、連れて行ってあげるよ」
「今日は?」
「明日の何時くらいがいい?」
おじさんは今日は忙しいようなので、ソマリ料理は明日の楽しみに取っておくことにした。
部屋に戻ると、本日のルームクリーニングは問題なし!素晴らしい!
それだけで有難い気分になるのだから、人間は余り満たされ過ぎない方がいいのかもしれない。
昼飯を食べそびれたので、部屋でピザのスナック菓子とみかん、トマトジュース、3 in 1 (インスタントのカフェオレ)を頂く。
やはり、部屋に少しくらいは食料を置いておいた方がいいな。
気づくと外は明るくなっていた。ハブーブは数時間続くものらしいので、ハブーブと言うほどではなかったのだろう。
しばらく書類をやっつけて、夜は同僚とエチオピアレストラン「Habesha」へ。
空港近くの街はずれで結構遠く、タクシー代は 1500 フランした。
コンクリート塀の上に「Habesha」と書いた看板が掲げられているが、中はひっそりとしている。
戸の前には、若い女性が座り、地面に置かれた台の上に小さいカップを並べている。横に焼き物のツボが置かれているところを見ると、エチオピアコーヒーを売っているのだろう。
彼女に店のことを聞いてみようか、と一瞬思ったのだけれど、ぷい、と目を逸らされてしまったので、声をかける勇気がわかず、塀の切れ目の戸の中を覗いた。
「ボンソワール」
戸をくぐると、裏庭のようなところがあり、その向こうに大きなガラス戸の建物がある。中にはテーブルが並び、何となくレストランのようではあるが、店内は薄暗く人の気配がしない。
本当にここなのか……?
おずおずと侵入していくと、右手のドアから、中庭が見えた。
あれ、もしかしたら、こっちなのかな?
中庭にもテーブルと椅子が並んでいて、一応テラス席のようだ。
カウンターもあるのだが、真っ暗で、その中に置かれたコカ・コーラのガラス戸の冷蔵庫は空っぽである。
ここ、やってるのか……?
「お客さん?」
中庭で所在投げに立ち尽くす僕たちに、スカーフで髪を隠した 40 歳ほどの女性が声をかけた。大きい目が力強い。
「あ、はい。営業してますか……?」
「やってるよ。そちらどうぞ」
招かれるままに、白いプラスティックの、ビーチに置いてあるような椅子に座る。
少し色のくすんだ赤いテーブルクロスの上には、傷だらけの透明のビニールのカバーがかけてある。
これは、かなり、渋い店に来てしまったのかもしれない……。
しかし、持ってきてくれたクリアホルダーのメニューは、意外とちゃんとしたものだった。オムレツやパスタ、肉料理ときて、エチオピア料理が二ページ。更に、エチオピアの紹介ページまである。
「ビールありますか?」
ネット情報で、この店にはビールがあると聞いてきたのだ。
「あるよ。ワリアでいい?」
メニューを見ると、ワインやスピリッツもある。
「今はラマダンと言って、みんなご飯食べないの。だから、エチオピア料理しかないよ」
地元飯大好きな僕としては、願ったり叶ったりである。
しかも、メニューはかなり豊富で安い。見ているだけで興奮してくる。説明がフランス語なので、いまいちよく分からないけど。
メニューの写真を撮っていたら「翻訳アプリ使っているんでしょ?」と女性は笑った。
あ、そうか。その手があった。
結局三人で一品ずつ頼み、シェアすることにした。
「あれ?」
N さんが、はっと頭に手をやる。
「どうしたんですか?」
「雨……?」
んん~~?確かにホテルを出たときも、空気は湿気ていた。夕方も少し降ったし……。
念のため、テーブルをカウンターのある庇の下に引っ張ってきて、様子を見た。
確かにたまにぽつ、ぽつ、と降るのだけれど、降るというほどでもなく、食事をするうちに雨のことは忘れてしまった。
程いいころに料理が来る。
それぞれインジェラ(酸っぱいクレープ)がついてくる。一人二巻き。どんぶり飯 2 杯くらいか?
S さんは「私、前回、インジェラ駄目かもって思ったんですが、これは大丈夫です!むしろ美味しいです!」と力説する。
そこへ N さんが「慣れてきただけじゃないの?」と突っ込み、みんなで笑う。
ここのインジェラは、酸味が強く、厚めなのだけれど、独特の臭みが少ない。そして、酸味が肉の脂をさわやかにして、よく合うのだ。
左上が Tibs(肉のソテー)1500 フラン。右上が Kifto(ひき肉とチーズとほうれん草の炒め物)1700 フラン。下がインジェラ。
Tibs のこま切れの肉は歯ごたえがあり、噛み締めるとうまみが出てくる。
野菜も多めで、S さん曰く「この優しい味、日本人はみんな好きですよね!」
Kifto はちょっと辛かったようで、同僚二人は余り食が進まなかった。その分、僕はがぜん張り切る。
横に添えられたカレーパウダーを混ぜて食べると、辛ウマ。肉汁の多いキーマカレーの具を食べている感じ。
Bozena(肉とひよこ豆のピューレ)1200 フラン。
具は少なめなのだけれど、どろりとしたスープが、トマト味のする上等なビーフシチューのようで、とても美味しい。三つの中では、僕は Bozena が一番好きだなあ。
「……!」
一口食べて、僕たちは目を見交わした。これはかなりイケてるぞ……!
なお、トイレを借りた S さんは、普段饒舌なのに「すごかったです……」と黙して語らず。
Habesha:★★★★☆(個人的には大変好き。和食は出汁が決め手のように、エチオピア料理は肉の脂が決め手なんじゃないかなぁ)
明日は PCR テスト。そろそろ帰国が見えてきた。
……あ、同僚が帰国するだけで、僕は帰国じゃないか。パリ経由でマダガスカルだ。
まだ今回の出張、半分も終わってねぇや。
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