20220427 最後の晩餐に仔ヤギを屠る
朝は寝坊してしまったので、なし。
午前中は何だかんだで仮契約も無事終了し、現地事務所に報告。
昼は Casino で鶏の串焼きサンド、ミニチキンバーガー、ミニミートパイ、かき氷を購入。
かき氷は昨日のやつがまずかったので、違う味を試してみようと思ったのだ。
結論から言うと、串焼き、バーガー、パイは、安心の味。Casino のベーカリーで不味かったのは、アッサル湖の時に買ったサンドイッチのパン部分くらい。
かき氷は、ライム味かなと思うのだけれど、ケミカルな味で、もう買うことはないと思った。
美味しいもののシリーズは大体美味しいけれど、不味いもののシリーズは、大体不味い。
これ、試験に出るから、覚えておいてね。
午後は発注業者に挨拶という名のご報告。
夕食は(僕以外の同僚は)最後の晩餐ということで、カブリ(フランス語でヤギを意味するが、当地では小ヤギの丸焼きを指す)を食べに行くことになっている。要予約なので、事務所の K さんが頼んでくれたのだ。
場所はムシャ通りを南に一本入ったところにある、Ancien Cabri。
Hotel Banadir の東側の通りなんだけど、このホテル、なくなったみたいなので Google マップから消えるかも。
ムシャ通りを南を見ながら歩くと、通りのちょうど半ばくらいでこの看板が見えると思う。
K さんに連れられて店に入って行くと、若い女性が驚いたように迎えて来れた。
「えっ、もう来たの?」
「早かった?」
「いいよ。入って、入って」
入ると改装中らしい店内にはテーブルも椅子もなく、奥の方からゴトゴトと出してきた。
「今、シェフは出かけてて、いないのよ」
みんなの間に一抹の不安がよぎる。本当にありつけるのだろうか……。
「何飲む?何でもあるよ!水、コーク、オレンジ……」
「ビールは?」
「お酒はないねぇ」
まぁ、そうですよね。そうだと思いました。なので水とコークで乾杯。
O さんとは初めて会ったので、自己紹介を兼ねて雑談をする。
彼は 30 年以上前にたまたまジブチに来て、それ以来この国に魅了された日本人である。
今は当地で海の仕事をしたり、ジブチ産の布製品を日本で売ったりしているそうだ。
背が高く、日焼けして九州訛りの彼は、ざっくばらんで人好きがする。
「自分、ジブチば来た時は、日本人やというけん、石ば投げらるることがありました。やけん、ジブチん人と日本人が仲良うなるるよう働きかけたとです」
「どうしたんですか?」
「なに、ただ、挨拶しただけです。アッサラームアレイコム(アラビア語)ゆうて。そがんしたら向こうも挨拶してくるるようばなって。自分、日本人ばい、ジブチん人んために働いとーと言うたです。そしたら、自分以外ん人も、石ば投げられたとき日本人だって言うたら,やめてくるるようになりました」
そういった地味な活動を続けられるのは、ある意味才能である。
「ジブチのどんなところに魅了されたんですか?」
「うーん。根に持たんことかね。色々やりあうこともあるとばってん、さっぱりしとー。付き合いやすか。細こうない」
そうこうするうち、店主が帰ってきた。
「ごめんごめん、待たせて!これからすっごいの食べさせてあげるからね!付いておいで!」
彼を見てみんな安堵する。食べる前から分かる。この人は美味しいものを作る面構えだ。
招かれるままに奥の厨房に行くと、奥行き 2 m、横幅 1 m、高さ 1 m 程の窯の上に、段ボールが積んであり、更に石や鉄屑が載せてある。
店主は、ひょい、ひょい、と石や鉄屑、鉄の蓋をどけて「ほら、触ってごらん」という。段ボールを触ると、結構熱い。「うわっ、熱い。S さんもどうぞ」「熱いですね!」
段ボールの下には新聞紙、更にその下には金網が置いてある。
その金網の下には……丸鶏と仔山羊の頭数個!
二つ並んだ釜の中には、直径 80 cm ほどの大きな円筒形のカゴが入っている。
「さあ、出てくるよ、じゃじゃじゃーん!」
若い弟子がカゴを取り出そうとして手こずってるのを見て、そうじゃない、こうだ、と大将が取り上げた。
カゴは二段になっていて、下段に半身に切られた子やぎの胴体が載っている。鶏もヤギもこんがりと焼けて旨そうである。
「奥を見てごらん!美味しそうだろう?!美味しいんだよ!」
二つのカゴの下には、それぞれ大きな鍋が置かれていて、片方にはスープ、片方にはご飯が入っている。なるほど、滴った肉汁が、ここに入るのか。
「席について、席について!ディナータイム!」
歌い出しそうなテンションの高さで、店主は僕らを店内に戻した。
程なく肉とご飯とスープとサラダがテーブルに並ぶ。
まさに宴という言葉がふさわしい様相を呈している。ジブチでは、ラマダン明けのお祝いにカブリを食べたりするという。さもありなん。
「いただきまーす」
肉にはお好みで、赤くて辛いパウダーと、くすんだオリーブ色のミックススパイスをつけて食べる。ご飯には、これも少しピリ辛のペーストを添えて。
「……!」
「美味しい!!」
締めたてなのだろうか、ヤギは少しも臭みがなくて、脂はとろりと甘い。ほのかに味のついたご飯と食べると、ふくよかな旨味が口中に広がる。
皮はかりっと香ばしく、スパイスをかけなくても旨いが、時々味に変化をつけるのもいい。
肉は柔らかく、脂が落ちている分、繊細な味わいである。
ヤギの丸焼きなどというと豪快なイメージであるが、その実、デリケートな料理なのだ。
5 人で 2 万フランしたけれど、8 人分くらいはあっただろうか。
大分残してしまって恐縮していたら、K さんが持参の鍋に、ご飯や肉を詰めている。
「お一人暮らしなのに、そんなにたくさん召し上がれますか?」
「いえ、家の警備の方にあげるんです」
さすがだな、と思った。
Ancien Cabri:★★★★★(とにかく美味しい。見た目のインパクトも含めて、人数多めでお祝いをするなら最適。雑多な通りの狭い店であるが、2022 年現在改装中なので、こざっぱりしている)
店主が他の肉をデリバリーに出かけてしまったので、K さんが支払いのために彼を待っている間、O さんと少し周りを歩いた。
アル・ハムジ・モスクの裏側に、Al Hamoudi という新しいショッピングセンターができたのだと教えてくれた。
パキスタンの男性が着るような長いシャツを売っているので聞くと、リチャブ rechab といって、ラマダン明けなど、ちゃんとした時に需要があるので、いま店頭に並んでいるようだ。
O さんが歩いていると、色々な人が声をかけてくる。そして O さんも、布やらコーヒーやら、色々買っていく。
「挨拶ばして何か買うて。そがんしとーと、なにかあった時に助けてくるるです。それで街んひとになる」
O さんは、自分の言葉を振り返ってから、一言足した。
「ばってん、質がよかもんば感じんよか人から買うだけですよ」
それから、O さんは今買ったアーモンドを僕らにくれた。「アメリカのアーモンドですけど。キロ単位でしか買えんけん、小分けに包装してもろうとるです」
僕はちょっと、自分がケチなことを反省した。
お金と時間の使い方は、その人の生き方を反映する。
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